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今井博記者を悼む

2011/02/28 12:20

 

  
 産経新聞のモスクワ支局長やボン支局長、論説委員などを歴任した今井博記者が亡くなりました。今井記者はロシア語が堪能で、国際報道でもソ連、ロシアを専門として長く活躍しました。毎日新聞でもモスクワ特派員を長い年月、務めました。
 
 ご冥福を祈ります。
 
 私も毎日新聞の時代からいっしょに国際報道の仕事をしたことにある仲間でした。産経新聞では1988年にアメリカのレーガン大統領が初めてモスクワを訪問した際、私は勝手のわからないソ連におっかなびっくり出かけたのですが、そのとき東京からきた今井さんがいろいろ指導をしてくれて、とても助かった体験があります。
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【訃報】今井博氏(元産経新聞モスクワ、ボン支局長)
2011年02月27日 産経新聞 東京朝刊 社会面


今井博氏(いまい・ひろし=元産経新聞モスクワ、ボン支局長)26日、胃がんのため死去、71歳。葬儀・告別式は3月2日午後1時半、東京都杉並区上荻2の1の3、光明院で。喪主は妻、絢子(あやこ)さん。

 産経新聞退社後は学習院女子大学や東邦大学で非常勤講師を務めた。著書に「レールモントフ・彗星の軌跡」「モスクワ特派員報告」などがある。

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ロシアに詳しく、その文化を愛した今井さんはソ連の共産党独裁体制にはきわめて厳しい論調を貫きました。そのソ連・ロシア体験をつづった著書も多々あります。以下にいくつかのタイトルを書きます。
 
 

暮してみたソ連・二〇〇〇日 (1985年) 

今井 博 (著)

 

 

モスクワの市民生活 (講談社文庫) 今井 博 (文庫1992/3)
   .

レールモントフ・彗星の軌跡 (ロシア作家案内シリーズ)

 

 

以下は今井記者が産経新聞に書いた多数の記事のひとつです。

 

【清算されない過去】いま、ロシアは…(上)権力の腐敗に市民諦観
1994年08月18日 産経新聞 東京朝刊 国際面

 九一年十二月のソ連崩壊から三年目に入っているが、新生ロシアの産みの苦しみはまだ終わりそうにない。七十四年間の共産党支配の過去を清算し、民主的な 国家としてロシアが再生するためには多くの障害が立ちふさがっている。かつての共産主義に代わって民族主義・大国主義がロシアの国家イデオロギーになる危 険もあり、「清算されない過去」を引きずっている。この二年間、モスクワで暮らした印象をまとめた。 (前モスクワ支局長 今井博)

 

 モスクワを去る数日前、友人たちがレストランで送別会を催してくれた。食事もそろそろ終わりかけたころ、かなり酔っ払ったロシア人が私たちのテーブルにやってきた。一見してマフィア風だ。

 

 「あんたらはいい日本人のようだが、成田では頭にきたぞ。警察官が空港でオレを逮捕した。クソくらえだ」

 

 聞くに堪えぬ粗暴な表現をたっぷり交えた悪口雑言がとめどもなく続く。しかもこの男はレストランの関係者らしく、ウエートレスは「やめなさいよ」とお座なりに言うだけだ。

 

 一緒にいた二人のロシア人女性は顔を真っ赤にしている。ロシア人男性は視線を伏せてしまった。

 

  仕方なく私が「私たちを放っといてくれないか。あんたの逮捕とは無関係なのだから…」と口をはさんだ。そのとたん、男のツバが私の左ほおに飛んだ。席を けった私を家内とロシア人女性が必死で押しとどめた。私は大声で「警察を呼べ」と怒鳴ったが、ウエートレスは取り合わない。ヘラヘラ笑っていたその男は、 調理場に姿を消した。

 

 ここはグルジア・マフィアとつながりのある店といわれる。

 

 外国人がいまモスクワでさまざまな被害に遭うのは日常茶飯事で、私の不愉快な体験は決して特殊なものではない。強盗、窃盗、空き巣と限りがなく、路上でハイエナのようなジプシーの子供の集団に外国人が襲われても、ロシア人は知らんぷりをして通り過ぎて行くだけだ。

 

 ロシア人の友人に「警察に訴えてほしい」と伝えたが、友人たちが相談して出した私の“事件”の結論はロシアの世相を如実に示していた。

 

  地元の警察はマフィアに買収されているから絶対に動かない。それどころか、マフィアにこの訴えを教えるだろうから、私が車で出かけるたびに尾行され、いろ いろな嫌がらせをされるだろう。警察本部に行っても、書類作りが果てしなく続くだけで、帰国を延期しなければならなくなる。

 

 つまり、い まのロシアではレストランで他人にツバを吐きかけても、法律によって罰せられることはない。それどころか、刃物で傷を負わされても、殺されても、警察が機 敏に乗り出すことを期待するロシア市民は少ない。警察の腐敗は、ロシアでだれひとり知らぬ者のいない周知の事実なのだ。

 

 交通警察(ガイ)の係官が通りで車を止めては、ささいな違反を口実に金を巻き上げることは有名だが、私がある日、モスクワ市内の白ロシア駅で目撃したオモン(内務省の特務部隊)の隊員の乱暴には驚いた。

 

 ベラルーシの首都ミンスクからモスクワに着いたばかりの列車に、一人の若いオモン隊員が乗り込んできた。乗客のほとんどは乳製品をモスクワ市内の街頭で売るために来た人たちだ。

 

  オモン隊員はその中の一人に近づくと、「オイ、販売許可証はあるか」と言う。もちろん、そんなものは持っていない。「許可証の代金をオレに払え」と言った オモン隊員の要求に首を振ったとたん、ベラルーシの若者が大きなリュックサックに入れてきた牛乳、ヨーグルトなどのビンの上に、警棒がめった打ちに振り下 ろされた。

 

 オモン隊員はわずか一人、出稼ぎの仲間は数十人。だれもこの無法な行為を非難しようとはしない。権力にあくまでも従順で、もの言わぬ民の姿がそこにあった。

 

 スターリン時代、一千万人近い同胞が死刑台あるいは収容所に送られるのを、見て見ぬふりをしてきた過去の悲しい習性はまだ消えてはいない。

                         =========

 

 

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コメント(13)

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2011/02/28 13:57

Commented by josh-88 さん

この記事はロシアの混乱期の時の話のようですが、現在はどうなんでしょう。
スターリン主義を肯定するような強権政治に逆戻りですから、腐敗も深く静かに潜行中なんでしょうね。
程度の違いはあれ、ココ中国もご同様です。
基本的には、無法地帯、ですね。
中国で生活してると、つくづく「別の世界なんだなぁ。」と感じます。

 
 

2011/02/28 14:18

Commented by 古森義久 さん

josh-88 さん

ご指摘のようにいまのロシアも今井記者がここで書いていたころと、そう変わらないような印象ですね。

中国では私もふと感じたのですが、異常を異常だと感じなくなってしまうことが恐ろしいですね。この点ではあなたのいまの感覚は正常ですね。

 
 

2011/02/28 14:48

Commented by no-minsyu さん


世紀の大虐殺者No,1=スターリン  No,2=毛沢東  No,3=ヒットラー

いい表現では無いけれど、この3人と比べたら、金日成金正日親子、胡錦涛、カダフィ等は、まだまだ甘いってことなのかな。

中国は恐ろしい国だと思ってはいたが、ロシアもそれに負けず劣らず恐ろしい国だな。

 
 

2011/02/28 15:34

Commented by ana5 さん

歳をとる事の欠点のひとつは
同世代を見送る事が多くなる事でしょうね

先輩の死は受け入れ易いが同世代は難しい
ご冥福を祈ります

 
 

2011/02/28 20:15

Commented by 花うさぎ さん

古森さん、こんばんは。

スターリン時代、一千万人近い同胞が死刑台あるいは収容所に送られるのを、見て見ぬふりをしてきた過去の悲しい習性はまだ消えてはいない。

う~ん、ご紹介の記事をはじめて拝見しましたが、凄い文章ですね。

二日の葬儀、都合を付けて参列したいと思います(--)。

 
 

2011/02/28 22:40

Commented by syurin さん

古森さん、1994年というと平成6年。

わたしは、当時まだ大学生だった者です。
我が国では、自社さ連立の村山内閣が発足し、
オウム真理教松本サリン事件を起こした年です。
産経新聞は当時から第一面が独自の見出しでした。

今井記者の文章は、ソルジェニーツィンの「収容所群島」を彷彿させます。
心からお悔やみ申し上げます。

 
 

2011/02/28 23:36

Commented by 古森義久 さん

syurin さん

サリン事件での産経のスタンスは独自だったのですね。

お悔やみをありがとうございます。

 
 

2011/02/28 23:38

Commented by 古森義久 さん

花うさぎ さん

文章をほめてくださる方が直接に弔意を表してくだされば、本人もうれしいことでしょう。

 
 

2011/02/28 23:39

Commented by 古森義久 さん

ana5 さん

ありがとうございます。

 
 

2011/02/28 23:46

Commented by 古森義久 さん

no-minsyu さん

確かに恐ろしい国は多々ありますね。

ソ連の恐ろしさを今井記者は正面から報じてくれたと思います。

 
 

2011/02/28 23:48

Commented by dpal451 さん

 古森様 こんばんは。

>かつての共産主義に代わって民族主義・大国主義がロシアの国家イデオロギーになる危 険もあり、「清算されない過去」を引きずっている。

 ご紹介の記事、まるでバイオレンス・アクション映画のような迫力のある文章ですね。本当に生々しい社会が思い浮かぶようです。荒れたロシアの人心や社会制度の中では、やはりプーチンだとかメドベージェフのような力しか信用せず、またそれを誇示したがる権力者が現れるような気がします。どうも世界が日本とはまるで違うと観念した方が適切かも知れませんね。

 帝政ロシア時代はトルストイとかドストエフスキーなどの文豪を輩出し、きめ細人情の機微には本当に感心させられましたが、ソ連時代を経て世界が変わってしまったかのようです。ソ連独裁恐怖政治の爪痕はやはり数百年でも経たないと癒えないのではないでしょうか。

 これは考えてみれば、ユーラシア中央部全域にも言えることで、それはまた中国でも同じで、戦乱に次ぐ戦乱でついに共産党独裁という大弾圧、大虐殺という悪夢を経験しているのですから、孔孟の時代の道徳倫理など消え果ても仕方ないとも見られますね。

 また著書を拝読したいと思います。ご冥福を祈ります。

 
 

2011/03/01 00:05

Commented by 古森義久 さん

dpal451 さん

「日本とはまるで違う」

今井記者の基本認識もこのへんから出発していたと思います。

でも洞察の深いコメントをいただき、故人へのなによりのねぎらいでしょう。

 
 

2011/03/02 02:09

Commented by hoisassa さん

今もロシアの民族主義者達が中国人などをターゲットに襲撃してますね。去年もロシア在住の日本人が拝外主義者達に襲われて重傷を負った人がいますよ。

 
 
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