ラリー・マルーニさんと北京のホテルで昼食をともにして、「ああ、オリンピックはこういう人たちに支えられているのだな」と実感した。
彼はワシントンでの知人、米国政府関連機関と契約して働く40代半ばの米国人男性である。
五輪ファンという言葉は彼にとって軽すぎる。
夏冬両方のすべての五輪に毎回必ず、どんな遠隔の地でも駆けつけ、開会から閉会まで多くの競技の観戦だけでなく、主催国の社会や市民や文化までをじっくりと観察するというからだ。
■許せぬ詐欺サイト
まったくの個人で動くその種の五輪観察の常連が米国はじめ欧州やオーストラリアに合計数百人もいて、開催地でいつも顔を合わせる。
独身のマルーニさんは単独行だが、ほかにも一人旅が意外と多いのだという。
「常連は30代以上から70代まで文字通り多様な男女です。アテネ五輪では70代半ばの米国人男性が現地で心臓の病気で急死して、仲間内では『ああいう死に方なら悪くない』と話題になりました」
マルーニさんは日ごろの余暇や趣味をすべて五輪観察に傾ける。
出発は1988年のソウル五輪だったから夏の五輪だけでも北京は6回目となる。
「いつも五輪開催の14カ月ほど前から交通手段、宿泊、入場券などの手配を本格的に始めます。その準備段階から現地での競技観戦を含めて、今回の北京はやはり異質です」
マルーニさんは異質を指すのに「アノマリー」という英語を使った。
どの五輪でも近年は開会閉会の式から各種競技までのイベント入場券をインターネットで売り出すようになったが、今回に限ってグローバルな規模での詐欺サイトが誕生した。
「beijingticketing.com」というサイトで各種チケットの販売が始まり、多くの人が購入したものの、すべて架空だと判明した。
被害総額は5000万ドル以上で、米国などの司法当局が捜査を始めた。マルーニさんもあわや被害に遭うところだった。
中国政府が五輪の計画通りの実施という目的のためにチベット人を弾圧したり、宗教指導者や民主活動家を抑圧したりするという事態も、マルーニさんには「五輪の本来の目的をあまりに踏みにじる行動」として壁となった。
一度は自分なりの北京五輪ボイコットを考えたが、とにかく現実をみることにした。
米国の旅行会社を通じて北京でのホームステイを申し込んだ。
中国人家庭に五輪期間中、合計800ドルを払って滞在するという計画だった。
だが当局への滞在の登録や中国人家族への英語教授の義務など制約が多すぎることがわかって、旅行会社が計画全体をキャンセルしてしまった。
ちなみに北京市内の朝陽区では当局が外国人ホームステイ用に600の家庭を選び、各国に宣伝したが、8月までに応募は2組だけ。ドイツ人夫婦と、中東の衛星ニュース局「アルジャジーラ」の記者だったという。
■激しい規制
北京入りしてからのマルーニさんはまず入場券の偽造と超高値の闇市場売りのあまりの横行にびっくりした。
しかも観客席がガラガラという場合が多いのだ。
歴代の五輪でも初めてみる現象だった。
そして一般観客を含む外国人への監視と規制の激しさも想像を超えていたという。
実はマルーニさんは中国は昨年も含めて数回、仕事で訪れたことがある。
その体験を踏まえ、最も気になることとしてあげたのが以下の点だった。
「中国の人たちが以前からは考えられないほど民族主義的、自国礼賛になっていることです。そこには排外の要素があらわです。まあ五輪期間中だけの傾向だと思いたいですが」(編集特別委員)
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中国雲南省でも暗躍していた北…