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アメリカ次期大統領の出自をめぐる影とナゾ――バラク・フセイン・オバマの光と影(5)

2008/12/10 11:42

 

バラク・オバマ次期米国大統領について雑誌『WILL』2009年1月号に書いた論文の続きを紹介します。

 

今回はオバマ氏の影の部分、とくに生まれや育ちをめぐる一連のナゾについて、です。

 

              ======= 

 

オバマ氏のそうした影の部分に光をあててみよう。

 

第一はオバマ氏の出自に関する影である。

 

オバマ氏ケニア人の黒人留学生を父に、カンザス州出身の白人女性を母に、一九六一年八月、ハワイのホノルルで生まれたことは広く知られている。

 

だが同氏自身のフセインというミドルネームがイスラム教徒だった父親と祖父の両方に由来していることは、アメリカの大手メディアではまず触れられることがなかった。

 

もちろんイスラムという宗教やその信者がそれ自体、悪いことはなにもない。

 

ただ現在のアメリカではキリスト教徒が絶対多数であり、イスラムは往々にして非民主主義的な価値観や、最悪の場合、テロリズムと結びつけて考えられることも少なくない。

 

国政レベルでの選挙では候補者がイスラム教徒という例はまず皆無に近い。

 

アメリカの国政ではイスラム教徒は超少数派であり、イメージとしてもハンデを負わされるのだ。

 

オバマ氏の「フセイン」というミドルネームはケニア人のイスラム教徒だった祖父フセイン・オニャンゴ・オバマ氏からの継承だった。

 

祖父はケニアのルオ族で、村の長老だったという。

 

しかし今回の大統領選挙キャンペーンではそのミドルネームがマスコミに出ることは皆無に近かった。

 

共和党側の一部で「フセイン」を口にすれば、オバマ陣営からはただちに「人種や宗教の差別だ」という激しい反撃が浴びせられた。

 

その結果、オバマ氏の「フセイン」という名は事実上のタブーとなり、フルネームを記述することさえも禁忌となった。

 

もし共和党側の大統領候補にフセインというミドルネームを持つ政治家が出たとすれば、ニューヨーク・タイムズをはじめとする民主党びいきの大手メディアはその政治家のルーツを徹底して検証する調査報道を展開したことだろう。

 

だがオバマ氏に関してはその名前自体も、その名の由来も「影」となり、光をあてられることはなかった。

 

オバマ氏自身は一九九五年に出版して、全米ベストセラーとなった自叙伝『父からの夢』(日本語版タイトルは『マイ・ドリームバラク・オバマ自伝』)で自分のルーツについて詳しく書いていた。

 

その自伝によると、オバマ氏の父バラク・オバマ氏(オバマ氏は父の名前をそのまま継いだ)は息子の生後まもなく単身でハワイを離れ、アメリカ本土へ移ってしまう。

 

その理由はハーバード大学の博士課程での奨学金を得たものの、その金額が家族を養うには十分ではなかったことだという。

 

その結果、オバマ氏は母アン・ダンハムさんとハワイに残って暮らす。

 

だが父子や夫婦の愛はその後もずっと保たれた、という記述だった。

 

しかしオバマ氏のルーツなどをより批判的な立場から調査報道の形で詳しく追跡した『オバマ国家』(ジェローム・コルシ著)という書によると、オバマ氏の出自は本人の主張とは数多くの点で大きく異なるという。

 

二〇〇八年はじめに出版され、全米ベストセラーとなったこの書の著者コルシ氏は、ハーバード大学で政治学博士号を取得した学者である。

 

著作活動も活発で二〇〇四年には民主党大統領候補ジョン・ケリー氏のベトナム戦争へのかかわりを詳述した書を出して、話題となった。

 

保守派ではあるが共和党員ではないという人物である。

 

『オバマ国家』によると、オバマ氏の父親はハワイに留学してきたときはすでにケニアでケジアさんというケニア人女性と結婚し、子供二人がいて、ハワイでのオバマ氏の母親アンさんとの結婚は事実上の重婚だった。

 

しかもオバマ氏の父はアンさんと息子を捨てて、本土に渡ったのであり、ニューヨークの「社会調査ニュースクール」大学からは家族の生活費をも含めての奨学金を得ていたから、「家族を養えない」という主張は事実ではなかった、というのだ。

 

このへんの実態はイギリスの大手紙デーリーメールなどがケニアの現地取材を基に何回も詳しく報道している。

 

オバマ氏の父はアメリカで経済学を学んだ後、ケニアに戻るが、その前に別のアメリカ人白人女性のルース・ナイドサンドさんと結婚している。

 

アンさんと別れた後の結婚であり、ケニアにはルース新夫人を連れて帰った。

 

そしてケニアではルースさんと暮らしながら、なおケジアさんともきずなを保った。

 

父親のこのへんの複雑な女性や家族の関係はオバマ氏の自伝には出てこない。

 

父親はケニアでは満足のいく職を得られず、アルコール中毒となって、飲酒運転で事故を起こし死亡する。

 

事実上の自殺だとされた。

 

一九八二年のことである。

 

このへんの状況も『オバマ国家』やデーリーメールその他で詳しく調査されている。

 

だがオバマ氏自身は自伝では父親の死を単に事故死と記していた。

 

さらにオバマ氏の少年時代のインドネシアでの生活がミステリアスである。

 

母のアンさんはオバマ氏の誕生から四年後の一九六五年にはやはりハワイインドネシアからの留学生だったロロ・ソエトロ氏と再婚した。

 

ちなみにアンさんはハワイ大学で人類学を専攻していた。

 

一九六八年にはオバマ氏は母に連れられ、インドネシアに移住する。

 

継父となったソエトロ氏は当時、誕生したばかりのスハルト政権の政策で他のインドネシア留学生たちとともに本国へ戻されたからだった。

 

アメリカで地質学などを学んでいた同氏は、他のインドネシア人同様、イスラム教徒だった。

 

 オバマ氏の自伝によると、オバマ母子はソエトロ氏とともにジャカルタ地区に一九六八年から一九七一年まで住んだ。

 

 オバマ氏が六歳から十歳の期間だった。

 

 この間にアンさんはソエトロ氏の子供を七〇年に出産した。

 

 オバマ氏の父親違いの妹となるマヤ・ソエトロさんだった。

 

 このインドネシア時代のオバマ氏の生活や教育にいまなおベールに包まれた部分が多い。

 

 一つにはオバマ氏の滞在期間だが、マヤさんの後の証言では六八年から七三年までだという。

 

 オバマ氏自身が述べた期間より二年も長いのだ。

 

 自伝ではインドネシアでのオバマ少年はジャカルタの私立のカトリック系インターナショナル・スクールへ入れられたことになっている。

 

 だがインドネシア側での記録や証言では、次のような情報も続出していたという。

 

「当時、バリー・ソエトロと呼ばれたオバマ少年は二年ほどは地元の公立学校に通い、イスラム教に基づく教育を受け、イスラム聖典のコーランを読誦させられていた」

 

「オバマ少年は一時はイスラム教を集中的に教えるマドラサにも通い、宗教教育を受けていた」

 

「インターナショナル・スクールの書類には『バリー・ソエトロはホノルルで生まれたインドネシア国籍の少年である』という記述があった」

 

以上のような情報は今回の大統領選ではオバマ陣営からみな否定された。

 

なによりも強調されたのは「オバマ氏はキリスト教徒であり、イスラム教信者だったことはない」という点だった。

 

以上、述べてきた出自をめぐる曖昧さもオバマ氏自身の大統領としての資質とは無関係だともいえよう。

 

これほど数奇で複雑な生まれや育ちにもかかわらず、アメリカ社会で傑出した業績を積み重ねてきた事実はオバマ氏の才能と努力の成果だともいえよう。

 

またこれほど外国の要素が強い人物でも、大統領にまでなれる点にこそアメリカの国家や社会の開かれた偉大さがあるのだ、という議論も十分に成立するだろう。

 

しかしその一方、これほど異端な出自がアメリカ国民一般にとってはほとんどベールに包まれたまま選挙キャンペーンが戦われていった事実は、やはり奇異だといえる。

 

さらにはオバマ氏の生まれや育ちにつきまとう独特の「非アメリカ的」要因がその後のアメリカの政治指導者としての同氏にどれほどにじんできたのか、どうにも不明な部分が多く残ることも否定できない。

 

マケイン候補に票を投じたアメリカ有権者のなかには、この点に不安を述べる人たちも多かったのである。

 

(つづく)

               =======

 

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コメント(11)

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2008/12/10 13:15

Commented by leny さん

異端であればあるほど正統を演じなければならない、としたら、オバマ氏民主党の歴代大統領のうち、評判の良い大統領のパッチワークになるでしょうね。

仮にその通りだとしたら、ある意味、分かり易いと言えば分かり易いかも知れません。

 
 

2008/12/10 14:15

Commented by siegfried さん

 だんだん化けの皮がはがれてきたようですね。あのなめらかな口調は希代のペテン師のなせる技だったのかもしれません。我が国の指導者ではないけれども、少なからず影響のある国ですから、今後も注意して見守る必要があります。オバマがだめになったらバイデンのようなうさんくさい輩が大統領になるわけで、何とかオバマに化けの皮を縫い合わせて頑張ってもらうしかないのでしょうね。

 
 

2008/12/10 15:15

Commented by maikee さん

その人の根元的な部分を敢えて見ない様に、そして報せない様にして選ばれた大統領選。
まるでアメリカ中が集団催眠にかかっていたかのようですね。
更に、演説の上手さだけで大統領になったとも言えるわけで、なにやら戦前の独裁者とそれを熱狂的に支持した某国民にダブる部分もありそうです。
今後ともその熱狂が続くのかどうか。
まぁ、評価するにしても実際の政権運営次第ですが、何か世界、特に対アジアでとんでもないことをやりそうで一寸恐いなと思っています

 
 

2008/12/11 03:18

Commented by paka さん

イスラム教では、改宗は認められていないそうですね。
改宗することは、死を意味することとか(改宗した者は殺さなければならない、という話につながっていきます)。
そして、イスラム世界では、父親がイスラム教徒なら、その子はイスラム教徒である、と理解されているようです。
この点、オバマさんをはじめアメリカ人は、甘く見ているように思えます。

 
 

2008/12/11 09:58

Commented by izatoru さん

> 共和党側の一部で「フセイン」を口にすれば、オバマ陣営からはただちに「人種や宗教の差別だ」という激しい反撃が浴びせられた。

> またこれほど外国の要素が強い人物でも、大統領にまでなれる点にこそアメリカの国家や社会の開かれた偉大さがあるのだ、という議論も十分に成立するだろう。

フル・ネームを呼ぶことさえタブー視されるような状況があるにも関わらず、アメリカ国家が開かれているという幻想を抱かなくてはならないというのは、問題が発生し始めた時には、批判の絶好のターゲットになるのでしょうね。
なお、私の知人のタイ人は、仏教徒ですが、小さい頃はイスラム教徒だったと言っていました。(祖父の家で育てられていて、その影響だとか言っていましたが、家族関係がよく分かりませんので、聞き間違いかもしれませんが)

 
 

2008/12/11 10:02

Commented by izatoru さん

米国では、ミドル・ネームを変えることは難しいのでしょうか?
フセインというのは、米国キリスト教の政治社会では、不利になりそうなので、変えようとしても不思議ではありません。
私の知人の純粋(のはず)の日本人ですが、名前を変えたと言っている人が2名います。

 
 

2008/12/11 10:09

Commented by 古森義久 さん

leny さん

パッチワークのパッチの作業がうまくいけば、歴史に残る名大統領、
まずくいくと、大破綻ということでしょうか。

 
 

2008/12/11 10:10

Commented by 古森義久 さん

siegfried さん

あなたのバイデン評に同調するアメリカ人はとくに保守派に限らず、私の周辺にかなりいるようです。

 
 

2008/12/11 11:11

Commented by leny さん

To 古森義久さん
>パッチワークのパッチの作業がうまくいけば、歴史に残る名大統領、
>まずくいくと、大破綻ということでしょうか。

政策自体はブルッキングス研究所などの民主系のシンクタンクを利用するでしょうし、イメージ戦略は彼のブレーンなどがシナリオを書くと思います。

下手に彼が自分色を出さず、政策が有効に働けば、名大統領となるでしょうし、自分色(ラディカルな部分)を出してしまえば、韓国のノムタンのように、迷(走&惑)大統領に昇格することになるでしょうねぇ。

少しアメリカ経済が落ち着いた辺りがターニングポイントになるのではないでしょうか?

 
 

2008/12/12 09:06

Commented by outtolunch さん

古森様、こんにちわ。

私はこのオバマという人を見てると、なぜかウィリアム・フォークナーの傑作、『八月の光』の主人公であるジョー・クリスマスとイメージが重なってしまうんですよね。なぜかは分かりませんが。細部はかなり違いますし。
僕の勘が正しければ、この人も最後は自滅してしまう気がします。
根拠は全くないですが(笑)

ところで、アメリカのメディアでは、この手の話題も禁止なんでしょうね。

 
 

2008/12/15 04:41

Commented by 古森義久 さん

outtolunch さん

おはようございます。

おもしろいイメージですね。私はこの作品を知りませんが。

はい、この手の話題は禁止ではなくても、禁物というところのようです。

 
 
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