「変革」と「希望」を一貫したスローガンとして選挙を戦ったオバマ氏は、終盤ではとくに「変革はワシントンからは起きない。
外部からやってくるのだ」と熱をこめ、叫び続けた。首都に長年、築かれてきた既成の政治の体制や概念とは正面から決別するという宣言としてひびいた。
ところがオバマ氏は国防長官にブッシュ政権の現職ロバート・ゲーツ氏を、財務長官にこれまた現政権下の連邦政府機関たるニューヨーク連銀総裁のティモシー・ガイトナー氏を、それぞれ任命した。
少なくとも国家安全保障と経済・財政政策に関しては「オバマ氏は当面、変革ではなく継続を選んだ」(長老政治評論家のデービッド・ブローダー氏)という反応が不満と安堵(あんど)を錯綜(さくそう)させながら渦巻いたわけだ。
オバマ氏が新政権の主要人事として最初に発表したのは大統領首席補佐官へのラム・エマニュエル氏の起用だった。
同氏はワシントンの究極のインサイダーだったからオバマ氏の脱ワシントン宣言をいぶかる声が起きた。
エマニュエル氏は20代だった1980年代からワシントンで民主党の政治活動に身を投じ、クリントン政権の大統領顧問などを7年も務めた。
ワシントンの政治ゲームに精通する同氏は度し難い政敵に腐りかけの生魚を箱に入れて送り、威圧して沈黙させたという有名な話もある。
オバマ氏が政権引き継ぎチームの責任者に選んだジョン・ポデスタ氏も70年代からワシントンで民主党議員の補佐官やロビイストとして活動し、90年代はクリントン大統領の首席補佐官だった。
オバマ氏は選挙戦中のレトリックとは対照的にいまやワシントンの既成勢力にすっかり身を寄せたようにみえるのだ。
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■第3次クリントン政権?
オバマ次期政権は「第3次クリントン政権」になるという皮肉な評もある。
人事面だけみると的外れともいえない。
エマニュエル、ポデスタ両氏に加え、象徴的なのは国務長官に任命されたヒラリー・クリントン氏である。
商務長官に選ばれたビル・リチャードソン氏もクリントン政権の国連大使、司法長官に任命されたエリック・ホルダー氏も同政権の司法副長官、国家経済会議委員長となるローレンス・サマーズ氏も同政権の財務長官だった。
オバマ夫妻が2人の娘を、クリントン夫妻の娘チェルシーさんが通ったワシントンのエスタブリッシュメント向け私立名門校に入れることを決めたというのも、なにやら示唆的である。
ここまでの人事から政策を占っても、上院で最もリベラルとされたオバマ氏の左傾の展望は表面にはなかなか出てこない。
ヒラリー・クリントン氏がイラク攻撃に賛成していたように、次期政権に登用された人たちの軌跡は過激リベラル路線からはほど遠くみえる。
オバマ氏のこうした変身ぶりをどう読めばよいのか。
アフガニスタンなどでの対テロ戦争、イラクの平定と民主化の大詰め、そして米国自体の金融危機、経済不況と、さし迫る緊急課題の数々は次期政権にもまずは継続以外の選択を与えないからか。
そのための民主党の人材といえば、まずクリントン政権を支えた層に頼るほかないからか。
あるいは上院での激しい左傾志向を大統領戦ではすっかり隠したオバマ氏は、この種の変身こそが天性なのか。それとも多様な人材を使いこなし結局は自ら信じるリベラル政策を打ち出すのか。
ワシントンではこのナゾ解きがまだその幕さえ開いていないせいか、なんとも落ち着かない日々が続くのである。
(ワシントン駐在編集特別委員 古森義久)
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