<< 2006年12月
123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

『日本に挑む中国』 古森義久の新刊書 「いまそこにある危機」とは何か。

2006/12/23 12:15

 

 新しい本を出しました。
PHP研究所からの刊行です。
内容は、中国とは日本にとってなんなのか、パートナーなのか、脅威なのか、という命題です。

目次をまず紹介します。
序章 安倍訪中と日米中関係ーー日米同盟や揺らがない
第一章 靖国問題の虚妄ーー目的ではなく手段である
第二章 東シナ海での日中激突の危険ーー中国に有利に  
      動いている
第三章 中国発・アメリカ利用の反日圧力ーー「実」と「虚」   
      を取りまぜる
第四章 日本の対中国失策ーー日本の対中政策はゆがん   
      でいた
第五章 アメリカの対中認識が教える現実ーーアメリカも   
      中国と対峙する
第六章 米中間の亀裂ーー米中両国はせめぎあう
第七章 中国内部の現実ーー対中ビジネスのリスクとは何  
      か
以下はこの書『日本に挑む中国』の「まえがき」です。
この書の趣旨を「まえがき」に記したつもりです。

           まえがき

中国というのは日本にとってきわめて重要ではあるが、なんとも厄介な存在である。貴重な経済パートナーであると同時に、「いまそこにある危機」でもあるのだ。この書は日本という基本的立場を踏まえたうえで、その中国にさまざまな角度から光をあてることに努めた報告である。具体的には中国のわが日本に対する政策の虚実、逆に日本の中国に対する姿勢の振幅、超大国アメリカ中国とのせめぎあいのうねり、さらには中国内部での現実の明暗などについて報告し、論評した。

そうした作業を通じて中国とは日本にとってなんなのかを、少しでも鮮明にすることが本書の目的だともいえるだろう。

私はいまはワシントンを拠点とし、中国をみるにもアメリカの情報や考察がまず入り口となる場合が多いが、日本にもどる機会も少なくないから、日本の対中認識や対中姿勢にも直接に触れてきた。中国にも二年間、住んだ経験がある。その二年はもちろん中国の動きを報道することが日常の任務だった。自画自賛にひびくかもしれないが、アメリカ、日本、中国にそれぞれ拠点をおいてきた経歴は中国を多角的にみて、考えるという作業には有益だと思う。

 

 中国は日本にとって、機会なのか、パートナーなのか、危機、あるいは危険なのか、脅威なのか、友邦なのか、宿敵なのか――

 こうした問いかけは当然、中華人民共和国という存在がいまの国際社会にとって、あるいは現代の世界にとって、なにを意味するのか、という設問にも直結している。また超大国アメリカにとって、中国はいかなる存在なのか、という問いとも表裏一体となっている。 

 当然ながら中国の持つ意味は世界にとっても、わが日本にとっても、単純な標語で規定するには、あまりに多層であり、複雑である。だからこそ中国を読み解く作業も多層かつ複雑な観測が欠かせない。

日本からの日中関係を踏まえての中国読解はもちろん最重要だろう。日本の同盟国であり、唯一のスーパーパワーとされるアメリカの中国観も大きな指針となる。中国内部で起きていることの情報や分析も不可欠である。こうした多様な視角からの考察があってこそ初めて中国という存在の実像が手ごたえのある感じで屹立してくるのだといえよう。この書で試みたのも、そうしたアプローチである。

 

 二〇〇六年十月二十六日に新首相に選出された安倍晋三氏は就任後まもなく、まず最初の訪問国として中国に出向いた。この事実は、中国が日本に対して発揮する独特の重みを象徴していた。だが安倍首相の訪中は同時に中国が日本に突きつける数々の課題の難しさをも明示していた。

 中国も日本も互いにとって超重要な隣国同士である。「日中友好」という年来のスローガンが明示するように、両国が補完しあい、協力しあい、交流しあい、という緊密な関係を保たねばならない現実の要請は明白である。 

現に中国は日本にとって貿易の相手としては最大となった。中国にとっても日本からの投資は経済の高度成長に欠かせない主要因だろう。経済面に限らず、両国間の人的な交流も拡大する一方である。

安保や外交でも北朝鮮の核兵器開発への対応の実例のように、日本にとって中国の協力を必要とするケースが少なくない。おそらく中国と日本の両方にとって、大量破壊兵器をもてあそんでの北朝鮮によるこれ以上の冒険主義的言動を抑えることも、共通の利益であろう。国連でも安保理の常任理事国として拒否権を握る中国は日本の国連外交で正面からの敵にはなかなか回し難い強力な存在である。

しかしその一方、日本と中国との間には、どうにも避け難い対立案件もある。目をそらせないギャップや断層がある。相手への善意や友好をあえて抑制せずに、自然体に構えていても、なお双方の立場がぶつかってしまうという領域が厳存するのである。

もっともわかりやすい対立案件は領土問題だろう。日本固有の領土の尖閣諸島を中国は自国領だと主張する。東シナ海での排他的経済水域EEZ)の線引きの対立では、ガス田資源開発という枢要の国家利害がぶつかりあう。その摩擦はいまや中国側の攻撃性さえ感じさせる日本領海侵入などで軍事衝突の危険さえ生むようになった。

日中両国のそうした対立の背後には、政治の体制や価値観の巨大なギャップがある。簡単にいえば、日本は複数政党の競合を前提とする民主主義であり、個人の自由や権利を尊重する。中国は共産党の独裁体制を不変とし、個人の自由や権利も大幅に制限している。

こうした政治面でのコントラストは安倍新政権が対外政策で民主主義という価値観をこれまでになく明確に主張し、実際の政策に盛り込む姿勢をみせる現状では、さらに大きな意味あいを持つだろう。

日中両国間では安全保障上のゼロサム的な対立も巨大である。日本がアメリカとの同盟強化という形でアジア地域の安保面での役割を拡大すれば、中国側ではそれだけ自国の安保上の利害が削られるような認識からの反発が起きる。

中国が史上でも稀なペースでの軍拡を続け、台湾攻撃能力を強め、さらには東アジアでの覇権の樹立をも目指しかねない軍事姿勢をみせるとき、日本もアメリカとの連携を強め、台湾海峡の平和と安定への懸念をはっきりと表明し、日米共同のミサイル防衛網の構築を決めるにいたった。

中国側が現状変更を求めて、最初にとった軍事増強策がそもそもの対立の原因ではあっても、いったん始まった摩擦は仕掛け役がどちらかなど問題にはならない形で過熱しがちとなる。

日中両国間では地政学的に不可避な対立さえ影を広げてきた。同じ地域に二つの同じようにパワーフルな主権国家が存在すれば、必然的にその両国が競合し、対立していくという国際政治の古くて新しい現実である。日本が二〇〇五年春、国連安全保障理事会の常任理事国入りを真剣に目指したとき、中国がものすごい勢いで反対の動きをとったのが、その典型的な実例だった。

日中両国間にはさらに歴史問題なる案件をめぐる対立もある。ここ数年、両国間の摩擦の主題とまで映るようになった靖国問題もその一環といえるだろう。

日本では首相が、あるいは他の一般国民が靖国神社に参拝するか否かは、小泉純一郎前首相が「心の問題」と評したように、戦没者への追悼をどうするかという内向きの命題である。国家にとっては内部の問題、個人にとっては心情の問題である。信仰や礼拝、あるいは精神の問題だともいえる。いずれの場合も日本国としての対外政策や対中政策とは関係がない。

ところが中国はその靖国問題をうまく外交案件にすることに成功してしまった。首相の靖国参拝の是非を対日戦略の人質にとり、外交カードにして、日本側を揺さぶってきた。中国側は日本の現在の首相も、次期の首相も靖国参拝中止を言明しない限り、日中首脳会談には応じないとまで断言してきた。

しかも中国側は日本人の靖国参拝一般を「拝鬼」と呼び、首相ら政治指導者の参拝は「侵略戦争の美化」とか「軍国主義の復活」と断罪する。小泉前首相が参拝のたびに「平和への祈り」や「不戦の誓い」を強調し、A級戦犯の行動を非難することなど、中国側はまったく無視してしまう。日本側で首相の靖国参拝に反対する親中派・媚中派からみても、誤解であり、曲解だろう。

だがそれでも近年の日中関係では中国側の「靖国カード」によって、日本側は翻弄され、たじたじとなってきた。

 

本書では以上のような日中の対立の領域にとくに力点をおいて、第三者であるアメリカの視点も含めながら、中国側の現実や真意を照らし出すことに努めた。そのうえで中国が最近、勢力拡大の活動をグローバルな次元へと広げ、日中関係での一進一退をはるかに超えて、超大国アメリカともせめぎあいを始めたことを報告した。

米中関係の新しい展開では当然、アメリカ中国をどうみるかも焦点となる。日本から、あるいは日中関係からみただけではわからない中国の実像がアメリカを含めての三角測量で、ちょっとでも明確に浮かびあがればと期待した次第である。

 

この本の執筆や編集にあたってはPHP研究所の安藤卓氏、中澤直樹氏、横田紀彦氏らのご指導が貴重だった。実際の本づくりの作業では同研究所の豊田絵美子氏にお世話になった。各氏に感謝の意を述べたい。

 

二〇〇六年十一月

            古森義久

 

 

 

 

 






カテゴリ: 世界から    フォルダ: 指定なし

コメント(12)  |  トラックバック(2)

 
このブログエントリのトラックバック用URL:

http://komoriy.iza.ne.jp/blog/trackback/91204

コメント(12)

コメントを書く場合はログインしてください。

 

2006/12/23 15:49

Commented by thinking さん

 新刊の出版、おめでとうございます。 年末年始は古森様の本で外交の勉強をさせて戴きます。 本当に、古森様の本は僕の知らない事が多くて勉強になります。

 
 

2006/12/23 16:23

Commented by 古森義久 さん

thinking様

ありがとうございます。

 
 

2006/12/23 20:02

Commented by さくやこの花 さん

新刊、おめでとうございます。
この本が日本社会の隅々にまで広がっていくことを希望しています。私ももちろん、勉強させていただきます。

 
 

2006/12/23 21:53

Commented by 古森義久 さん

さくやこの花様

中国については一見、対中関係が凪になったようにみえるいま、一層、真剣に考えねばならないと思っています。
アメリカ民主党側にも対中姿勢が共和党よりも険しいという部分があります。

 
 

2006/12/23 23:15

Commented by kikuti-zinn さん

新刊の出版おめでとうございます。
 今日、本屋で入手しました。明日読みます。

 
 

2006/12/25 09:10

Commented by 古森義久 さん

kikuti-zinn様

ありがとうございます。

 
 

2006/12/25 19:10

Commented by さくやこの花 さん

日米関係は今後も堅持していくことには変わりないとしても、中川氏の「長崎原爆は犯罪」発言などがあり、日本側にも米国との距離を一歩置こうという流れがあるような気がします。

米国ブッシュ政権の間は問題ないとして、民主党になった場合の米国の真剣度、日本の防衛についてですが、はどうも疑わしい。

特に、中国が米国をねらえる核を備えた状況でどうでしょう。台湾や尖閣あたりで民主党米国はやる気がありますかね。クリントンの時にはこりごりでしたけど。北にもどの程度のやる気があるか疑わしい。北が核のスーパー・マーケットにならなきゃ、ただ持ってる分にはかまわないとかんがえるおそれはないですか。
 
民主党には中国重視(日本との関連で)のイメージがありますが、民主党中国に厳しいと言うのは人権とかチベットとかの面ですか。

そうだとすれば、日本は拉致問題やチベット支援、インドとの連携などが足がかりになりますか。何で日米関係を強化すればいいかということですけども。 

 
 

2006/12/26 18:34

Commented by YAMATO さん

古森さん 今晩は。

いま「凛とした日本」を読みかけています。「いまそこにある危機」の目次を紹介して頂きましたが、明日早速本屋に行ってきます。

ところで、今日12月26日付け産経新聞によると、全国で初めて大学教職員の任期制を導入した秋田・国際教養大学では、初の契約更新で全教員45人のうち教授、助教授含む12人(外国人10人、日本人2人)が退職することが分かったということのようです。

例の、あの教授はどうなるのか気がかりなところです。

 
 

2006/12/27 19:21

Commented by - さん

はじめまして、古森様のステージ風発は、よく読ませてもらっています。
ニューヨーク・タイムズ東京支局長ノリミツ・オオニシ記者の記事に家族会が抗議文を出しましたが、古森さんも以前ニューヨーク・タイムズの記事に抗議していたと記憶していますが、おぼろげですみません。
英語に堪能な人は大いに抗議の声を上げてもらいたいですね。

新刊書が出ましたね、早速購読したいと思います。
中国は今後10年位の内に方向性が一段と鮮明になってくるのでしょうね。
ぜひ、古森様の新刊書で知識を得たいとおもいます。
楽しみですね。

 
 

2006/12/28 08:23

Commented by 古森義久 さん

さくやこの花様
疑問を呈された諸点、日本にとって、きわめて重要かつ自然な側面だと思います。順番にお答えします。

1、アメリカの民主党の対日認識が共和党とくらべて、同盟重視の度合い、
安全保障の重視の度合い、そして日本を成熟した対等の民主主義パートナーとして信頼する度合いが、やや低い、かなり低いのは事実です。しかしかといって、日米同盟の保持、堅持の基本は共和党と同じです。この度合いの違い、濃淡の違いから、クリントン政権時代にはいろいろ摩擦が深刻となったわけです。2009年1月にもし民主党大統領が登場した場合、日本にとっては「自国のことは自国で」の度合いが高まるでしょう。この変化は必ずしもネガティブなことではありません。

2、中国アメリカ本土に届く核ミサイルは実はすでに保有しています。す20基ー30基ぐらいだと推定されています。アメリカ中国に撃ち込める核ミサイルは上海沖のいつも待機する潜水艦積載のミサイルを含めて何十倍も持っており、さらに飛んでくるミサイルを撃ち落とすミサイル防衛の技術も高めています。だからアメリカ台湾問題などに関しての中国からの「核の恫喝」に簡単に屈することはありません。ただし民主党の方が「台湾支援」の決意が共和党より弱いことは確かですから、懸念の材料はあります。

3、北朝鮮の核兵器はもしその一部が他の危険な国やテロ組織に売却されることが確実となった場合、アメリカは「レッド・ライン」を超えたとして、武力行使をも含む、これまでとはまるで異なる対応をとることを宣言しています。きわめて危険な展望ですが、北の核兵器の拡散はそれよりも危険な展望でしょう。

4、民主党が中国の軍拡への懸念が少ない一方、中国の人権弾圧を非難する傾向が強いのは事実です。典型例はナンシー・ペロシ次期下院議長です。
この点は安倍政権が外交政策で民主主義や人権などの基本的な価値観の重視を強調していることは、日米の連帯を強める基盤となりえます。日本も中国の民主主義弾圧を頻繁に批判すべきだと思います。

以上、ご質問に答えました。

 
 

2006/12/28 08:26

Commented by 古森義久 さん

yamato様

国際教養大学の新人事の記事は私も読んで、おなじ疑問を感じていました。
そのうち人事、進退の内容がわかることでしょう。
もしなにも変化がないとしても、驚きはしません。一般に大学などの人事は柔軟ではないのが基本特徴のようですから。

 
 

2006/12/28 08:31

Commented by 古森義久 さん

asiandam様

私が抗議の投書を出したのはワシントン・ポストでした。産経新聞や私への事実無根の中傷投稿が載ったことへの抗議と否定でした。私の抗議文は確か11月16日の同紙に掲載され、そのことは産経でも報じられました。
その一方、私はニューヨーク・タイムズの東京発記事や社説での日本批判への批判的な記事を産経に書きましたが、ニューヨーク・タイムズの寄稿論文のセクション(オプエド欄)から依頼され、安倍新首相に関する寄稿コラムを書きました。確か9月30日に同紙に掲載されました。
以上のように同じ新聞でもいろいろな側面があるので、ケース・バイ・ケースで考えていくことが適切だと思っています。

 
 
トラックバック(2)

2006/12/24 14:33

自分らの思い通りにならないからって清水寺の貫主にまで八つ当たりするなよ [朝日歌壇鑑賞会【今週の作品】]

 

12/19〜24の朝日川柳から(◇は選者のコメント)。 教育基本法タウンミーティングネタから。 ● そう言えば総裁選やらせ気味   (静岡県 菅澤正美 12/19)  ◇TMだけでなく。  ※TVの街頭…

 

2006/12/23 19:50

【朝日新聞のお仕事】「自民有志が従軍慰安婦問題の検証を開始へ」 [つれづれすくらっぷ]

 

2006年12月22日(金)19:33  朝日新聞 自民党の「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」(中山成彬会長)は22日、従軍慰安婦問題を検証する小委員会(中山泰秀小委員長)を立ち上げ、来春までに検証結果をまと…